2011/02/27(日) アフリカ・ツアーその1 チウォニソがいない

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ジョハネスバーグの宿近くにて。左からチャンさん、ナオミ、ニコラ。

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多国籍バンド、Sukiafricaでのアフリカ・ツアーは南アフリカはジョハネスバーグより、ニコラ・プロの額の青筋とともに始まった。

ンダナのヤマちゃん(パーカション)&マサトさん(ドラム)、韓国からのチャンさん(パーカッション)、撮影担当の伊藤さん、私、以上アジアン・メンバーは、宿泊先のB&B(ベッド&ブレックファースト。英語圏の国によくありますね。)で、ニコラが空港へ迎えに行ったアフリカン・メンバーの到着をのんびり待っていたのだ。
夏とはいえ標高の高いこの地は、快適だ。庭の樹には花が咲き、鳥が集い、芝生の向こうにはプールが光っている。
すてきな一軒家をほぼ独占した我々は、時差ボケも忘れ、天下をとったような気分で「わははは」と笑った。
同室のチャンさんは「とても素敵な部屋ですね。ワタシはとてもうれしいです。」と正しい日本語で喜び、無駄に体力をもてあしているヤマちゃんにいたっては、ベッドの上に木琴を置いて練習をしはじめる。
つられてはじまった優雅なセッション大会に飽きると、ヤマちゃんは「南半球の水道の栓は右に回すと水が出、左に回すと閉まる」などと、純真でボケの通じないカメラの伊藤嬢をからかっている。このバンド内でボケや冗談が通じない人物としてはドラムのマサト氏が極めて有名であるが、伊藤嬢はそれに輪をかけて天然だ。
「南半球のクルマはハンドルを左に切らねば右へ曲がれない」などとヤマちゃんは調子に乗っている。

B&B従業員、アグネス嬢に彼女の母語、ツワナ語会話を教わっていると、ドーンと雷が鳴り、雨が降り出した。
門のあたりがさわがしいなと思っていると、アフリカン・メンバーがなだれこんできた。
パリから飛んきたフランス在住の4人、エリック(カメルーン人、ギター)、ピーター(トーゴ人、ギター)、シュシュ(カメルーン人、ベース)、そしてマネジャーのナオミ。
再会を喜ぶも、空港で合流予定だったチウォニソ(ジンバブエ人、親指ピアノ)の姿がない。
「もう、クチャクチャですよ」とニコラは青筋を立てて怒っている。
富山の音楽祭「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」でプロデューサーを務めるこの日本在住フランス人の日本語力は相当なもので、そこらの大学生よりはるかに丁寧な日本語を読み書き話す。
「メチャクチャ」と「グチャグチャ」の融合語を独自に発明するくらいお手のものである。
空港にいるはずのチウォニソがおらず、連絡もとれないらしい。

チェック・インも済ませていないアフリカン・メンバーを交え「チウォニソの身にいったい何が!?」「2日後の公演までに来てくれるのか!?」「残された男子7人で呆然とツアーをせねばならぬのか!?」「南半球の飛行機は上下逆さまになって飛ぶのか!?」喧喧囂囂と字を見るからに濃密な議論を交わす我々。
雨の中、大量の楽器、機材、荷物とともに宿になだれこむや、深刻な顔で、英語、仏語、日本語の唾液をまきちらし話合う面々を前に、従業員アグネスは恐怖に打ち震えていた。「この宿は満室です。アフリカン・メンバーの皆さんは道の向かいで弟がやっている宿にご宿泊と伺っていますが・・・」

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B&Bのリビングにて。

その日の夕食は「何となく全員で買い出しして何となくキッチンで何か作って何となく何か食べたいですね」と何となく誰かが言い出した。
「宿には調理器具や食器はあるが大した調味料もなく、それまで買っていたら外食より高くつくやんか」という私の反対意見をよそに、決定的イニシアチブをとる者もない野郎どもは、ぞろぞろと何となくスーパーへ向かって夜道を歩き始めた。
開いていたスーパーにはこれといって野菜も肉もなく日用品と缶詰ばかりで、全員、メニューも考えずに何となく右往左往し、何となく目についた石けんなど手にとっている。
富山にあるスキヤキ出演アーティスト宿泊用の一軒家において「アーティスト・ハウスの母」として、ご飯にみそ汁、パスタ、サラダに、ハンバーグと日夜料理に腕をふるった実績のある私は、何となく期待されていた。
しかし、何を作れと言うのだ。
「ハメられた!」と思いながらも、魚の絵が書いてある赤い缶詰とスパゲティを大量に購入して帰宿。
10人前とはいえ、パスタを茹でて、温めた缶詰をかけるだけであるが、「オレが作るよ」と明るい笑顔でキッチンに向かうものなど当然おらず、ひもじい野郎共のためにヤマちゃんとカメラの伊藤嬢とともに立ち上がった。
宿のコンロは電気コンロだ。最新式の電磁調理器というものではなく、ニクロム線などが蚊取り線香のように巻いてある旧式のもの。
「ガスのインフラ整備をするくらいなら、電気でいいじゃん」というノリで、アフリカの都会ではよく見るが、これが熱しにくく、ガスと比べると格段に火力があがらない。
弱火で煮込まれたスパゲティがアルデンテになるわけがない。
少し鍋から取り出して三人で齧った。
「火力不足をうんぬん言う前に、これはパスタではない。別の麺かナニかだ。」
というのが共通の見解である。
農作物にやたらと詳しいヤマちゃんは小麦の品種方面にまで問題を拡げている。
どうやら買ったパスタが相当な安物だったらしい。
ほどなくして、イワシのトマト煮をかけた伸びきったウドンのようなものが、テーブルの上に並んだ。
照明の暗めな食堂で、全員がモグモグと何となく黙って食事をした。
はじめから作る気などなく付和雷同しただけの者どもは、「まずい」などと大胆な発言する権利すらないことをよく知っているのだった。

現地プロモーターから連絡があった。
「チウォニソは今夜遅くに到着します。飛行機に乗り遅れただけだったようです。」

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南アフリカで主流のコンセントの形は、B3型をかなり大型にしたようなもので、対応するプラグは日本でもヨーロッパでも手に入らなかった。
したがって、一旦現地でC型プラグへ変換し、そこからAやBFなどに変換する必要があった。
ステージでエフェクターを何台も使うピーターや私にとって重要な問題だ。

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