2011/03/06(日) アフリカ・ツアーその8 遠いハラレ

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旅の最終目的地、ジンバブエのハラレを目指しての移動は早朝から始まった。
チウォニソの国である。
彼女は「今夜はハラレのイケてるクラブへ案内するわ。パーティーよ!」とうれしそうだ。

昨夜水道の水を飲んだヤマちゃんが、お腹を壊しているという事実がおかしくてならない。
数年前ツアーの途中で北海道の山を散策したとき我々ふたりはキノコを見つけた。
彼は「このキノコ知らない種類だなー」と言うと同時に手を伸ばし、ためらいもなく少し齧って吐き出した。
「あ、これ舌にピリッときた。食べちゃいけないヤツだ」と平然と言った。
その男が腹を壊している。
殺人的な水道水だったらしい。

ザンジバルの空港からひとまずダル・エス・サラームへ飛ぶ。
プロペラ機に久しぶりに乗った。
不正をはたらいてまたも窓側に当選したマサト氏は「プロペラにガムテ貼ってある!大丈夫か?」と騒いでいる。
ヤマちゃんは当然、「南半球のプロペラは逆回転する。」と自分の腹の急回転をよそにカメラの伊藤嬢をからかう。
空に昇って海を渡ると、もうダル・エス・サラームだ。
ここでいったん預け荷物を受け取り、到着ゲートから出発ゲートへ移動して、ハラレ行きの便を出している会社のカウンターでチェックインし直すのだ。
そこで我々は恐るべき事実に直面した。

ハラレ行きの便が明日の早朝に延期されていたのだ。
あすのハラレ公演はいったいどうなる!

額に青筋ネットをすばやく装着したニコラ・プロと、ナオミ・マネは飛行機会社の担当女子を相手に交渉しはじめた。
キャンセルではなく「延期」なのでチケットは払い戻しされないらしい。
ニコラ、ナオミ、その他の乗客に囲まれた、ザンベジ・エアー担当女子は、別に私のせいじゃないんだけどという態度を固く崩さず「高級ホテルをご用意しますのでフライトまでお待ちください」と言う。
しかし我々はあした公演があるのだ。
ニコラはハラレのプロモーターに電話して状況を伝えている。
向こうも大騒ぎしていることだろう。

手持ちのチケットは捨て、別の飛行機会社の便を買い直すことを視野に、ニコラとナオミは奔走しはじめ、残った9人は時間をもてあました。
空港内は停電(!)につき暗くて蒸し暑いので、いくぶん涼しい外で待つことにする。

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日本公演のときと同じように、英語の小説や雑誌をいつも持ち歩いているチウォニソは
やりかけのクロスワード・パズルに没頭しはじめた。
チャンさんは、インスタント・コーヒーとしてはとてもうまい「アフリカフェ」(日本にも輸入されています)を購入しミネラル・ウォーターに溶かして即席のアイス・コーヒーを皆に振る舞ってくれる。
タンザニア・シリングを使い果たした我々はありがたく頂戴する。
マサト氏は床の上に大の字になって寝はじめた。
今度ばかりは正真正銘悲しい顔のエリックは、私の両手をにぎり、恐ろしく深刻な顔で旅の無事を祈りはじめた。
恐怖と不安に満ちたあまりの表情に、私はひるまずにはいられない。

お祈りから解放された私は、Sukiafricaおしゃれ番長のピーターにイチャモンをつけた。彼はチェックのジャケットを傍らのギター・ケースにかけている。

  私「ようようようよう、アンちゃんよう!おしゃれは我慢じゃねえのか?どんだけ暑くてもジャケットを着て、涼しい顔をしているのがミュージシャンってもんだろ、あん?」
  ピ「君の言うとおり、ステージに立つ我々ミュージシャンは自らの暑い寒いからは超越していなければならない。見る人のために、気温湿度に関係なくおしゃれでいなければならないのは我々の責務だ。」
  私「じゃ、なんでジャケット脱いでんだよう!」
  ピ「今ここでワタシがジャケットを着用すると、まわりにいる観客に対して暑苦しい思いをさせてしまうだろう。それが不本意なので、ジャケットを着ることを我慢しているのだ。ここが空港ではなく、ステージの上ならダウンジャケットでも喜んで着よう。全ては見る人のために。そのことをゆめゆめ忘れてはならない。」

ピーター番長は自らの言葉に納得するように頷いた。

ザンジバルの空港でもそうだったが、昨夜の我々のショーを見てくれた他の乗客が結構声をかけてくれる。
「あんたらサイコーだったよ」
「CD、買いそびれちゃった。今売ってくれない?」
つくづくありがたいことである。

私がいつもお世話になっている現地旅行会社、JATA ツアーズにアレンジしていただき、別の会社の便でハラレへ飛ぶことになった。
陽がだいぶ傾いたころ、我々はいまだ停電が続く空港に入り、チェックインした。
暗くなっても蒸し暑い空港内でフライトを待ち、ついに飛行機に乗ることができた。
搭乗する際、興奮したナオミ・マネは「飛行機!こいつを待ってたんだ!」と機体をたたいた。
夜8時ごろ。スケジュール通りなら、ハラレでのんびり食事をしているころである。

飛行機会社はケニア・エアウェイズにつき、ナイロビ経由である。
我々が乗った飛行機はハラレへ南下すると見せかけ、一度ナイロビを目指して北上するのである。
なんとなく損をしているような気分になるのは仕方ないが、マサト氏がまたしても窓側のチケットに当選しているのは仕方なくない!
ニコラ・プロが一行を代表してチェック・イン・カウンターにつく際、全員のパスポートを常に同じ順番に並べて提出していることが、窓側連続当選の不正を生んでいるのではないか。
ヤマちゃんと私からなる「窓側不正疑惑究明プロジェクトチーム」はそう判断し、ニコラ・プロとマサト氏の逮捕状を請求することに合意した。

ナイロビで乗り換えた飛行機はザンビアのルサカにも着陸した。
昨年のひとり旅を終えた空港である。
ここで降りる人もいれば、乗ってくる人もいる。
離陸まで暇そうなフライト・アテンダント嬢に訊いた。
「この飛行機はあなたたちをハラレでおろしたあと、マラウィのリロングウェに寄って、ナイロビに戻るのよ。」
この旅で最後に聞くスワヒリ語だった。
スケジュール通りであれば、「クラブでパーティー!」の時間である。

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ハラレの空港にて。迎えのクルマに荷物を積み込む。

ハラレに着陸したのは日付変わって午前1時。
標高が高いので涼しく快適である。
高級そうなホテルに到着して部屋で荷を解き、熱いシャワーを浴びようと裸になって浴室へ行くと、シャワー・コックがない。
栓をひねってみるとお湯も出ない。
普段のひとり旅では安宿に投宿することが多いので水シャワーには慣れているが、ここは高級そうに見えるからお湯が出るに違いない。
そして、コックなしでは水シャワーすら浴びることができない。

フロントに電話してバケツを持って来てもらったり、部屋を替えることになったりで、ベッドに潜り込んだのは午前4時ごろであった。
このホテルでは個室を与えられたので、いつもの相棒チャンさんはいない。
「あなたがいないと眠れないの。」
寂しさに耐えかねテレビをつけると、CNNがさかんに「エジプト革命!ムバラク辞任!」とやっている。
テレビの裏をゴキブリが這っている。

今夜はこのツアーの最後の公演だ。

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