2011/03/06(日) アフリカ・ツアーその9 電気ムビラ
左がブック・カフェで右が今夜の会場マネンバーグ。
●2/12●
朝食を食べてすぐにベッドに戻った。
寝ている間に、ナオミ・マネより「全員で昼飯行こ言うてんねんけど、おマンちゃんはどないする?」という電話があったが、寝起き声で「わて寝とるわ。」と答えた。
リハまで寝て体力を温存することにしたのである。
これを私はライブ前の能動的ゴロゴロと呼び、ツアー中にはよく実施する。
私は2002年に初めてチウォニソに会った。
それまで音源でしか知らなかった彼女のライブ・パフォーマンスをハラレのブックカフェで見たのだ。
そして、2007年にはザンジバルのサウティ・ザ・ブサラで彼女に再会した。
そのとき私は「君はそのうち日本に来ることになるよ」と言ったものだが、はたしてスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド2009で彼女は来日した。
2010年の同祭をきっかけに生まれたこのバンドは、サウティ・ザ・ブサラでも演奏し、今夜ブック・カフェの隣のマネンバーグで今回のツアーを終える。
リハーサルにふたりの娘を連れて来て紹介してくれたチウォニソは、「ベリー・スペシャル」と何度も言った。
リハーサル中。
ホテルへの移動中、チウォニソと娘たちと一緒になった。
私の英語に比べるべくもなく、アメリカ生まれのチウォニソと、その娘たちの英語はほかのジンバブエ人と比べてもとても流暢だ。
「夜が遅いからライブ観に来ちゃだめってママが言うの〜。」
「ザンネンだたね おきくなたらおいで キミたちイエでナニゴ ハナすか?」
「ほとんどショナ語よ。話題によっては英語にスイッチすることもよくあるわ。」
「そうあるか」
「その髪型ステキ!」
「ありがと ジンバブエいるあいだにドレッドにしよかな」
「ダメよ、そのままのほうが絶対いいわ!」
「ワタシ あなたのオカサンみたいにしたい」
「あたしはあなたみたいにしたいわ。」
「ニンゲン ミナ ナいものねーだりー」
ライブ直前に全員揃ってブック・カフェで食事をした。
タウンシップ・ジャイブなローカル・バンドが演奏している。
バス・ドラムにマイク一本、ギターはアンプのみ、ベースはギター・アンプに差し込まれている。
最小限のPAだけれどもとてもいい音がしていて、ナオミ・マネが感じ入っている。
角がなくてまるい音。
ハンチングがキマっているボーカリストが、曲に乗せてMCをした。
「きょう、俺たちの演奏が終わったら隣のマネンバーグで、すっげースペシャルなバンドが演奏するよ。そのバンドの人たちが今ここで食事してまーす。Sukiafricaのギターの人、ちょっとセッションしてみないか?」
歓声があがり、皆が我々のテーブルを見ている。
しかし、我々はライブにむけてアイドリング状態である。
舞台裏にいるも同然。
いきなり、スイッチを入れてステージにあがれと言われ、我らがギタリスト、ピーター・ソロは困った顔した。
「ミュージシャンは自らを安売りするもんじゃない。」
と目が言っている。
「しかし聴衆の期待を裏切ることはミュージシャン・シップに反する」と思ったが、やおらピックを手に立ち上がり、ステージに上がった。
やんややんや、である。
ピーター先生はブルージーなソロを一発決めてくださった。
結局、チャンさんまでマイクを握らされたりと、なかなか忙しい舞台裏だった。
今夜も満員御礼!
時間になり、満杯の客席をカニさん歩きしてステージに上がった。
大学の後輩の顔が見える。
さすがは外語大、卒業生はどこにでも住んでいる。
チウォニソの地元だけあって、客席は大いに湧いた。
彼女が作ったショナ語の曲では大合唱が起きる。
「このツアーはこれで最後。」
皆の共通する思いが、いいステージを生んだ。
午前中はゴロゴロしていた分、体がとても軽い。
膝ガクガク・ダンスなどお手の物だ。
ラストの"Nhemamusasa"はジンバブエの有名曲であり、フィナーレにふさわしい。
爆発的に盛り上がる客席とステージ。
汗を飛び散らせて激しくステップを踏みながらムビラを弾いた。
終演後、ブックカフェの楽屋で皆乾杯。
ボヤーッと口を開け、エクトプラズムが出入りするのを凝視していると、ハラレのムビラ演奏家、いわゆるムビラーがやってきた。
「ムビラのピックアップを見せてくれ。」
どこで公演しても客席に親指ピアニストがいれば必ずピックアップのことを訊いてくる。
ザンジバルでもタンザニアの演奏家に訊かれたものだ。
現代に生きる親指ピアニストたちに共通する関心事である。
あとで撤収のときにお見せしますと約束し、先に彼のムビラを見せてもらった。
最近ハラレでは、マグネティク・ピックアップをムビラにマウントするのが流行っていると、事情通の大学後輩、松平勇二・ロワンビラ代表から情報をもらっていたので、とても興味があったのだ。
そもそもキーが2段になっているムビラにマグネット・ピックアップをつけても、ピックアップからの距離に大きなムラができるから、使い物にならないだろうと思っていたのである。
だからこそ、ハラレのムビラーは長らくインターホンを改造したピエゾ・ピックアップをつけていたではないか。
これはすさまじい。
エレキ・ギターからもぎとった、正しくマグネティック・ピックアップだ。
キーの下ではなく、ブリッジの上からマウントすることで、距離のムラの問題を解決していた。
残念ながら、アンプを通した音を聴く時間はなかったが、長い残響がフィード・バックを生みそうである。
それとも、振幅の狭いブリッジ部だから、音量が低い分、余分な残響も少ないのか?
マグネティック・ピックアップによる音量増加の副産物として生み出された長いサステインの処理に困った、コノノNo.1をはじめとするキンシャサのコンゴトロニクス勢は、人差し指で巧みにミュートしながらパーカッシブに演奏していた。
左のキーが二段に分かれており、右手人差し指も演奏で使うムビラの場合、ミュート奏法はかなり難しそうだ。
アンプではなくてDIに直差しにしてモニターを控えめにすれば、結構使えるかもしれない。
帰国したら実験してみよう。
親指ピアノの電化マニアである私は研究心を深くくすぐられた。
見せてもらった楽器の背面。
エレキ・ギターから、ピック・アップだけでなくボリュームやトーンのコントロールつまみ、あろうことかピック・アップのセレクターまで取り外して、強引につけかえられている。
表に横並びになっている二個のピック・アップがもともとフロントとリアのピック・アップだとするなら、セレクターは必要ない。
ちなみにムビラの一種、ニュンガニュンガを弾くチウォニソは、ピエゾ・ピックアップを使っていて、高音から低音までバランスよく出力されている。
ジンバブエで主流のインターホン改造型ピエゾは、取り付け位置によってはカリカリと痛い音がするが、彼女のはツアー先のドイツで探して取り付けたのだとか。