2006/10/03(火) 「カリンバ」雑感

はじめて聴きにきてくださった人から、よく、「カリンバじゃないのですか?」と訊かれます。

「カリンバ」はもともとザンビアやマラウィの一部の民族が演奏するラメラフォーンの名前なのですが、近年いわゆる「先進国」では、リンバやムビラ、デングー、リケンベ、サンジなど数あるラメラフォーン(親指ピアノ)の総称として市民権を得つつあります。
それだけ浸透しているのは、南アフリカの楽器メーカーが工場生産し日本や欧米に輸出したラメラフォーンの商品名が「Kalimba」であったことと、それを受けてアース・ウィンド&ファイヤーのモーリス・ホワイトが演奏したことが大きな理由でしょう。
けれどもタンザニアでは、ジンバブエでは、ボツワナでは、コンゴでは、当然、通じない呼び名です。

「カリンバです」と説明すれば楽なんですが、よく考えてみると、この呼び名だって民族楽器が好きな人以外、ほとんどの人が知りません。
そして何より「リンバ」や「ムビラ」や「リケンベ」を教えてくれた師匠たちに申し訳がたたない。
それならと、少々面倒ですが、弾く楽器ごとに現地名で呼ぶことにしているのです。それぞれに特色をもった楽器たちの個性を説明するためにも。
総称する必要があれば、楽器の分類上使われる「ラメラフォーン」(ラメラは薄い板、フォーンは音の出るもの)、あるいは「親指ピアノ」を使っています。
もちろん、これらも現地では研究者以外からは使われていない呼び名なので少々気がひけてます。
「親指ピアノ」の場合、アフリカの楽器を、よりメジャーな楽器・ピアノを引き合いに出して説明している点も心苦しいし。
さらに、カメルーンのセンゼ メンバラという楽器などにいたっては、親指以外の8本の指で弾かれているし[ロス=ガンゼマンス・バーバラ=シュミットレンガー 1993『人間と音楽の歴史 中央アフリカ』音楽之友社]。

近代化が進むケニアの首都・ナイロビの土産物屋さんでは、タンザニアから輸入したリンバが売られています。
そこでは、訪れる外国人観光客が口々に「カリンバ」と呼ぶのを聞いて、店員さんやミュージシャンも「カリンバ」と呼びはじめているので、そのうちに現地名として定着するかもしれませんね。
一種の文化破壊です。

もうひとつ、「サンザ」という呼び名も一部ひろまっていますが、気になるのは、ぼくがコンゴ民主共和国を旅したとき、「リケンベ」以外の呼び名としては「サンジ」しか聞かなかったということ。
アフリカ音楽研究の第一人者・ヒュートレーシーは、「サンザ」や「サンサ」という呼称の出所として、デイビッド リビングストン(UKの宣教師、アフリカ探検家)がsansiを聞き間違ったのではないかといっています[Tracey, H. 1961 "A Case for the Name, Mbira."African Music Society Journal 2, No.4]。
この場合、母音で終わる単語が少ない英語話者の場合は、聞き違いは十分ありそうな話です。
ひょっとしたら、「サンザ」もなまったままアフリカにフィード バックして、定着しているところがあったりして。

次にアフリカを旅するときは、マラウィなどにある、もともとのカリンバを探す予定です。まだ弾く人が残っていればいいのですが。

※その後、2007年にマラウィへ赴き、カリンバの演奏家に会うことができました。
http://sakakimango.com/safari/safari07/000300.html


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先日の京都のライブでは、VJ担当の方にステージ上から演奏中の楽器を撮影してもらい、そのままスクリーンに投影してもらう、ということをやってみました。
楽器の特性上、親指がキーを弾いている様子というのはぼくしか見ることができないのですが、それがなんだかもったいなかったのです。
弾いている様子がわからない、という秘密めいた感じはとても好きなんですけどね。

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