2006/04/04(火) 哀悼 ウビじいちゃん

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ンドノを奏でるウビじいちゃん。2002年撮影。

タンザニアが生んだ世界的なミュージシャン・フクウェ ウビ ザウォセ(2003年没)の父・ウビ ミカ ザウォセが、先日3/31に亡くなりました。
100歳は軽く超えていました。
葬儀は翌日行われたそうです。

楽弓・ンドノや数本の弦を箱に張った楽器・スンビをいつも木陰で弾いていました。
興が乗ってくると、しわがれた滋味あふれる声でタンザニアの初代大統領・ジュリアス ニエレレを称える節を歌う。
膝の上で寝息をたてている曾孫のお腹にンドノを当ててゆっくり演奏していることもありました。

スンビの弦に日本の琴の弦を試してみたい、と言われていたのでお土産に持参すると、普段穏やかな彼に「こんなやわい弦じゃ使いものにならん!」と言われ、彼の熱いミュージシャンシップを感じたこともあります。

2005年に訪ねたときは、足を患い、フクウェの弟の家に引き取られベッドに伏していることも多かったのですが、それでも具合のいい日は音を奏でていました。
ぼくが日本へ帰る直前の朝、挨拶に伺うと、起きたばかりの彼は傍らのンドノを眼で指して、か細く
「おまえ、弾けるか?」
と訊いてきました。
覚えた限りのフレーズを弾くと意外なほど大きな声で「持っていけ!」と言ったウビじいちゃん。
「今度タンザニアに来るときは、会えるだろうか?」とはじめて思った日でした。

今、伝統音楽は後継者不足で存続の危機に瀕しています。
特に、文字や譜面を使わずに伝えられるものが多い(逆に言うと、だからこそ時代時代にあわせたアレンジが演奏者の手によって加えられる余地がある)アフリカの地域では、一人の長老が亡くなると
同時に膨大な情報が逝ってしまいます。
ウビじいちゃんは、植民地時代に生まれ二度の大戦や国の独立を体験したその人生の中で、さまざまな出来事を歌にしてきました。
そして、いくら身近で彼の演奏を聴いてきたとはいえ、その全てが子どもたちに伝わりはしないのです。

彼が長く生き、残してきたたくさんのスピリットが、花を咲かせ実を結ぶのを信じて。
心より哀悼の意を表します。

※4/2のコンサートでは、頂いたンドノで一曲演奏しました。

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