2006/01/26(木) 2006年1月26日(木)電気リケンベと伝統など
ひとりで楽器を鳴らしたり、人に会ったり、のんびりとした正月を過ごしながら、今年のテーマをソロ演奏の充実と、休止中のバンド・「国際マンゴー会議」の再編と決めました。
相反するようなテーマですが、出したい音の世界観は一本の線で繋がっています。
その音のイメージについて言葉にするのは野暮なので書きません。出された音に対する解釈も自由であるべきでしょうし。
アフリカで生まれた楽器が気持ちよく鳴る弾き方・勘所を維持しつつ、自分の音をいかに形作っていくか、今年も試行錯誤していきます。
きのうは、エフエム大阪のインターネット放送にゲスト出演して、電気リケンベやキンシャサ事情などについて話しました。
現地録音したコンゴ民族のグループ・Orch:Folklorique KONGO DINTOTILAの曲を、向こうで出会った音楽として紹介しています。"Orch:Folklorique"とは「民俗楽団」といった意味。国名はCONGOですが、民族名としてはKONGOと綴ります。
右はDJの丸橋基さん。放送は1/30から2/5まで、エフエム大阪のインターネット放送から番組名・World Music Paramをクリックしてお聴きください。
去年、キンシャサまで足を延ばした引き金となったのは、KONONO No1の"CONGOTRONICS"(2004年 Crammed Discs/発売元:プランクトン)に収められた電気リケンベの歪んだ音にあることは、以前書いた通りです。
正体不明の「癒し」ブームと手を取り合って、サワリ音の少ない、オルゴールのようにきれいで、変にお行儀のいい音が主流の日米欧ラメラフォーン業界をよそに、クラブ シーンでまっさきに電気リケンベの爆音が受け入れられたことは、コトの本質を暗示している気がしますが、KONONO No1の来日も早々決まるなど、その衝撃は少しづつ広がってきています。
「KONONO No1は、コンゴ民族の中のゾンボ民族とンバタ民族の混成チームで、KONONOとは、ゾンボ民族の音という意味だ」と、KONGO DINTOTILAのリーダー・ペンベレ マコスィ メノ氏は話していました。
(註)KONONOの意味については諸説あるようなので来日の際に訊いてみます。
また、アルバムの解説ではゾンボ民族は "Bazombo" と表記されていますが、「バ」は人をあらわす接頭辞です。
ちなみにコンゴの広く話されている "Lingala" の「リ」は言葉を表す接頭辞なので「ンガラ語」といってもいいのでは。
彼らのスタイルは、音の小さかったリケンベが電化されることで大音響の歪んだ音を得、合奏が不可能だったような楽器とのセッションも実現し、熟成されてきたポップスなのだと思っています。
その一方で、出会った現地ミュージシャンの多くが、「俺たちの音楽はフォークロア(民間伝承)だ」と言っていました。
新しく生み出されたモノが次々に彼らの伝統の延長上で語られているのです。
このことは、この例に限らず、訪れたいろいろなところで経験したことです。
「中国の古い音楽を知りたければ、日本の雅楽を聴くとよい」といわれるほど、シルクロードの終着点である日本では、昔伝えられた形がそのまま残されてきています。
特別な圧力に頼らない限り「変化」も「保存」もニュートラルな状態です。
それ自体に善悪はなく、どちらも尊重されてしかるべきです。
ですが、日本では、変わりつつある、よその民族の文化ですら不変であるべきとする、おかしな「伝統至上主義」といったものが生まれつつあるのではないでしょうか。
いわゆる「開発途上国」の民族文化の担い手のみを、ことさら「○○族」あるいは「部族」と呼び、フィクションに近い「昔とまったく変わらない伝統的な営み」が尊重され紹介され、ときに捏造される。
そういったことが起こるもうひとつの理由には、少数民族の文化を無視し、破壊してきた歴史への反省もあると、考えられなくもありません。
しかし、伝統には「不変であるべき核」と「時流にあわせて担い手が変えていってもいい部分」のバランスがあり、その配分自体は、民族によって流動的であるべきだと思います。
年始にあたり、今年のテーマを考え、電気リケンベについて話す機会を与えられるうちに、なんだか大事(おおごと)になってきました。このへんで。
※最近発売された、電気リケンベ バンドのコンピレーション・"CONGOTRONICS 2 - BUZZ'N' RUMBLE FROM THE URB'N' JUNGLE"に付いているDVDではライブシーンを見ることができます。現地でお世話になった、カサイ地方出身でルバ民族のミュージシャンも出演しているのです。歪んだ音を出す太鼓・ディトゥンバも登場!「都会のジャングルからの歪んだとどろき」とはうまいサブ タイトルです。
※キンシャサの電気リケンベについての写真入り報告は、こちらで読むことができます。