2009/11/11(水) 出席カードより
きのうは、大学でゲストとして講義をしてきました。
講義といっても、普段やる写真を使ったトークショーにワークショップ的なものを増やす程度ですが、場所柄かってが違います。
こういう場では冒頭、照明を暗くして小さな親指ピアノをコソコソ弾くことにしています。
親指ピアノについてほとんど知らない学生にどんな楽器で演奏しているんだろう、という想像を楽しんでもらいたいから。
情報が少ないまま触れる初めてのモノに対して、人はなんとかして拠り所(それが何に帰属するものか)を探して落ち着こうとします。
アフリカの楽器、あるいは民族楽器であることは前もって知らされているので、自分の言葉を探す努力を放棄して「サバンナの景色が広がる」「アフリカの大地の響きが聴こえる」あるいは「癒される」などなど、先入観に支配された紋切り型の感想が出がちです。
授業ではその場で感想を発表してもらわず、それぞれの胸の内に秘めてもらうことにしていますが、授業後に回収された出席カードには、その1曲目、初めて親指ピアノを聴いた感想が多く見られました。
普段なかなか触れることのできない感想でありながら、ぼく自身この楽器を始めた衝動を思い出し熱くなります。
とても興味深かったので、ここに抜き出します。
●少し奇妙で、夕方に演奏していて、子供たちは早く寝なさいという感じがしました。
●何か地下室のような空洞に水が落ちているようなイメージを抱きました。
●水の上に落ちるしずくのような音だと思った。
●雨の日みたいで、水がぽたぽた落ちているように思いました。
●画面(※写真を投影しているスクリーン)から音がかなでられているのかと思っていて、音が鳴りやんだ後、マンゴーさんが小さな楽器を持っていておどろきました。
●とても幻想的な雰囲気でした。
●今の私自身の気持ち焦りと、音が流れて行く早さがリンクするな、と思いました。深夜1人部屋に閉じこもっているときを思い出しました。
●見ための感じでは考えられないほど深い響きと多彩な音が鳴って不思議な楽器でした。
●木琴のような、鈴のような日本でも聞き慣れた音が響いてきて少し驚きました。
●一瞬で、現実世界からどこか違うところにワープしたような印象
●ミキサーで加工されているような何ともいえない音色を感じました。
最近は、プロモーション・ビデオで宣伝する手法や説明過多な歌詞の曲が広まってしまったため、音を聞いてなかなか自分自身の映像を頭の中に描きづらくなっていると思います。
そんな中、学生たちの声は貴重です。
今後も、不安な落ち着かない気持ちのまま自分が思ったことを大事にしてほしいです。
水に関わる感想が多いのも興味深い。
音色は「アフリカ」を背負っていない。
自分の中の「ロック」たるものを表現するためのツールが、たまたまアフリカ出身の楽器だった、そんな気持ちで音楽をやっているぼくには、学生の言葉がビシビシ響いてきます。
ジャンルに括られて安心しないような音楽を心がけるべし。
それにしても最後の二つの感想、強烈です。
トランス感覚が教室で伝わっちゃいましたかー。ヤバいなー。
ライブでは、エフェクターなどでダブ的な加工していますが、きのうは講義用マイクに楽器を向けただけ。
ビーズが生むサワリ音が生んだ効果でしょう。楽器の本質が学生に届いたようでうれしくなります。
授業中の質問タイムが短かったため、出席カードには質問もたくさん寄せられました。
この場で簡単に回答いたします。※学生諸君、「アフリカの」「アフリカ音楽の」と括った質問には、答えにくいです。ぼくが授業で紹介したのは多様なアフリカのいくつかの側面だということを忘れずに。「アジアの」「アジア音楽の」といって日本とインドの共通性を無理矢理探して一緒くたに語るのはたいへんでしょ?
Q.アフリカの方々は生まれた時から、訓練しなくても楽器を演奏できるのでしょうか?
ーいえ、訓練の賜物です。弾けない人はざらにいます。お母さんが乳飲み子を背中にくくったまま、激しいダンスをしている光景をたまに見ます。身の回りが音楽だらけという村の出身の人もいるでしょう。生後の環境が大きな影響を与えて、その中で何人かが演奏家に育ちます。まあ、日本も含めてどこも同じです。
Q.アフリカ音楽をしている人はなぜあんなに声量があるのか、気になります。
ー「アフリカ音楽をしている人は声量がある」という前提に再考を。親指ピアノは暇つぶしで弾かれる場合、多くはボソボソとしゃべるように歌っていますよ。ただ、民族あるいは、環境によっては遠くにいる人に伝えるため声量を出しているところもあるかもしれません。
Q.何で、そんなにややこしいリズムが生まれたのか不思議です。
ー複数のリズムを同時進行させるポリリズムについての質問ですね。なぜだろう。わかりません。もちろん地域ごとの事情の違いはあるので一概には言えないと思いますが、仮説を立てそれを実証できれば立派な研究です。卒論にいかが?
Q.リズムや親指ピアノは、いつもどのくらい練習されているのでしょうか?
ータンザニアで楽器を始めたころは毎日5時間、6時間と暇さえあれば練習していました。ぼくは右利きで左指の動きが右より鈍いので、左を鍛える地味なトレーニングを最近はやっています。携帯メールは左親指でしか打たない、など。リズムの練習としてはパルスを一定に保ったまま、残りをいい意味でいい加減に弾く練習をしています。16ビートと8分の6拍子の中間をウロウロするような。なにより練習とは切り離して一人で楽しく弾く時間を必ずもつことが、大事だと思っています。
Q.(なぜ)親指ピアノを好きになったのですか?
ー音色です。単純にきれいな音ではなくて、何かひっかかる音。以下のページや本にも詳しい理由を書いています。http://sakakimango.com/ngoma/000136.html
Q.関係ないのですが、胸元にかけてらっしゃるプラグ(?)のネックレスはアフリカで人気とかなんですか?
ーダル・エス・サラームのヒップな若者の間で大流行りしています。というのは嘘で、なんだかかわいいので作りました。プラグはコンサートで弾く電気親指ピアノの象徴です。友人が結婚したとき、プラグとコンセント、それぞれ首にかけられるようにしてプレゼントしました。
追加の質問はこのサイトの問い合わせフォームで送ってください。
その他感想は、捨てられるものから作られる楽器たちについて集中していました。
●身近なもので、こんなにもたくさんの楽器が作れることにおどろきました。
●生きて行く知恵や限られた物で楽しむ知恵は、私たちよりはるかにすぐれている
●何でも楽器にしてしまうという、音に体する知識の豊かさ。
●便利すぎる時代で育ったため、自分たちが「生み出す」という経験を全くしていないので、アフリカの人々をとても尊敬します。
●ないものは、自分たちでつくる、この精神はすばらしい
「エコ」「リサイクル」「地球にやさしく」ってなキャッチを振り回し続ける「先進国」とはえらい違いです。
その他音楽について
●楽器は作ることができる!!音楽は体全体を使って表現すると楽しい。音楽は体だと思った。みんな1人1人自分の音楽がある。
●音から様々な想像をする事ができました。
●やっぱり音楽の力はすごいなと思いました。
●話し方にもリズムがあり、歩き方にもリズムがある。そんな日常をかえりみることができました。
●自分の耳で聴いて、踊って楽しい時間を過ごせました。
●音楽が音を楽しむものだということを、久しぶりに心から感じることが出来ました。
うれしい感想です。行った甲斐があります。
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●マンゴーさんのLIVEにぜひ行ってみたいと思いました。
諸君、ワタクシの音楽は教室でのデモ演奏とは別ものナノダ。あんなもんじゃない。ライブ会場で待っとるぞ!