2007/09/06(木) チビテの新しいアルバム
チビテの近作二つ。右がリアル・ワールド盤。
リアル・ワールドで制作されたチビテ(THE ZAWOSE FAMILY名義※)の新しいアルバム'Small Things Fall From The Baobob Tree'をロンドンから持ち帰ってから聴いて、たいへん感動しました。
チビテはぼくの師、故・フクウェ・ザウォセの家族からなる楽団です。
チビテの音楽は、ゴゴ民族の地を離れて、ショーとして培われた、洗練された新しいゴゴ民族の音楽です。
彼らの親であり、指導者だったフクウェが国立民族歌舞団の首席奏者として選ばれ首都に招かれたことで、一家はゴゴ・ランドから離れました。
国立の楽団が一民族の音楽のみを演奏すると、多民族国家としてのバランスが悪いので、国内各地の他の民族の演奏家も招かれ、民族間の音楽的融合も図られたはずで、いわばパン・タンザニア的な民族音楽が生み出されました。
各民族語よりも共通語のスワヒリ語が多く歌詞に用いられています。
国の代表として演奏するため、ショーとしての完成度はとても高いものとなり、類稀な歌声と演奏技術をもつフクウェは幾たびものワールド・ツアーを成功させました。
カリスマが世を去り、残されたチビテの音楽は、その洗練性を置くと、ゴゴのリアルな伝統とは異なる点が多く指摘されます。
そのため、民族音楽に洗練性よりも土着性あるいは、土臭さを求める海外のリスナーはゴゴ・ランドに昔から住んでいる別のグループのCDを聴き、招聘しはじめています。
強力なリーダーシップをもった人物を失ってもチビテのショーは無論素晴らしいのですが、カリスマ不在のために海外のプロモーターの目にも留まりにくくなっているのです。
そんなとき、彼らならではの洗練性を逆手にとったこのCDには驚きました。
リアル・ワールド側が彼らをうまく方向づけていて、伝統的アプローチを尊重しながら、大胆に編曲にまで手を入れたり編集していることが一聴してわかります。
今の流行ではありますが、全体的に重低音を効かせて収録され、太鼓やマリンバが「ここぞ!」というポイントから入ってきます。
チビテが演奏することに一切口を出さず、そのまま録音していたなら、こんなにポップなアルバムは完成していなかったでしょう。
初めて民族音楽を聴くという人でもあきさせないように曲順も練られています。
録音に参加しているメンバーも多く(海外録音盤はこれまで人数が少なかった)、フクウェを追うように亡くなった奇才・チャールズの生前の歌声や、フクウェ本人の録音(一度お蔵入りになっていたものか?)なども含まれていて、ファンの声に応えてくれています。
フクウェ・ザウォセのアルバムを長く愛聴していた人もきっと、いい意味で裏切られるはず。
チビテにとっても、新しい方向性を自ら考えるいい機会になりうるのではないでしょうか。
ボーナス・トラックとしてザウォセ&ブルックのアルバムから一曲が収録されていたのがアルバム全体の雰囲気を壊している点と、リンバの録音状態がぼくの好みではなかったことが残念でした。
上の写真左は、このウェブサイトでもよく紹介していた、チビテの現地録音盤です。
これまでiTunesでのみ販売されていたものが、CDとしてパッケージ販売されるようになりました。
http://web.mac.com/yasuhiji/iWeb/SiteJ/CHIBITE.html
フィールド・レコーディング業界で知るものはいない録音技師・土方氏の録音によるものでぼくはアシスタントとして現場で通訳を務めたもの。
もちろん、リンバの録音は最高、バガモヨに住む50人を超えるフルメンバーが参加しています。
ロンドンで買ってきたCDの中でもう一枚の大当たりがこれ。
パーカッションをメインにしたナイジェリアのポップスの一つ、フジ。
首都ラゴスのミュージシャンの演奏をU.S.Aのブルックリンで録音し、UKのブリクストンでリミックスしたものです。
めちゃめちゃタイトな演奏と強引な感じのダブ処理がいい。
"FUJI DUB LAGOS-BROOKLYN-BRIXTON"このタイトルとジャケットで即購入を決めましたが正解でした。
10年前にTRIPLE EARTHでこんなものが作られていたとは。
※チビテではなく、THE ZAWOSE FAMILYとクレジットされている点についてアルバムのプロデュースに加わった友人、ジョン(前回のンゴマする日々参照)に尋ねたところ、
「もちろん、彼らがチビテと名乗っていることは知っている。けどそれじゃあフクウェ・ザウォセの過去のファンにとって誰のことだかわからないだろ。それはとてももったいないことだよね。CDが売れることが彼らの今後の助けになるなら、間違いなくTHE ZAWOSE FAMILYとクレジットする方がいいよ。それからフクウェとチャールズが以前出したアルバムのタイトルもチビテだから混同されてしまうし。」
と答えてくれた。
7月のWOMADの際も、このクレジットで出演したからこそ、WOMADの常連だったフクウェの過去のファンを会場に呼び込み、彼の遺族が元気にあとを継いでいることを知らせることができたと言ってよいだろう。
チビテのメンバーに訊いても、「私たちであることには変わらないんだから、どっちでもいいよ」ということなので特に問題視しないことにする。
ジョンが作った、ザウォセ・ファウンデーションのページ
http://www.zawose.com/