2010/02/02(火) キー配列の謎を解く

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すぐに出会えた親指ピアノ「ルケメ」。「ル」の発音は「ロ」との中間といったところ。

エマ氏に紹介されたグループ「モン・ピ・ドンゴ・ロボ」の設立者、ベティーらが翌朝ホテルにやってきた。
親指ピアノを一刻も早く見たい気持ちを抑えながら、ロビーでしばらく話をする。
グループ名は「政府のための女性たち」という意味らしく、その名の通り女性の社会的地位の向上を求めた社会活動などを行う団体のようだ。
核となるメンバーは「女性たち」だが、半数近くを男性が占める。
その一環として音楽演奏もやっているとのことで、毎夕、仕事を終えたメンバーが集まり練習いるらしい。

午後に彼らの練習場へ歩いて行く。
轍が縦横に交差するだだっぴろい広場を、頭に荷を載せた女性や、バイク、自転車、小学生のグループ、少年に追われる牛の群れなどが行き交う。
空がとても青い。
広場の脇にコンクリート打ちっぱなしの平屋があり、そこが彼らの練習場だ。
日本のNGOの協力で建てられたそうだ。

さっそく親指ピアノ「ルケメ」を見せてもらった。
前情報の通り、大きさが様々で、見ていて興奮してくる。
ルケメが得意だという男性、ブッシュ氏が大型のものを弾いてくれた。

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見た目は雑な楽器だが、親指ピアノにしては珍しく高音から低音までバランスが良い。
他のメンバーも加わってルケメのデモ演奏をしてくれた。
楽器間のピッチのズレが目立つが、すぐに例の高音連打フレーズが聴こえてくる。
運指を確認すると1台ですべて弾けることがわかった。
多くの親指ピアノのキーの配列は、キーの先端を結ぶ線がVの字のように真中が最長で端に向かうほど短くなる。
しかし、高音域担当の小型ルケメは両端が再び長くなって極端に言えばMの字のように配列されている。
同じ音程のキーを数本ずつ左右に配置する工夫であり、それにより早いパッセージのフレーズを楽に弾くことを可能にしているのだ。

ブッシュ氏を始めとする男性プレイヤーに比べると、女性プレイヤーの多くの演奏はシンプルすぎて、「付き合いで鳴らしている」印象を受ける。
他にも楽器がたくさん持ち出された。

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ルケメに同じく大小様々なサイズがある竪琴「アドゥン」。

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一弦フィドルの「リギリギ」。

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塩ビ管で作った縦笛「オレーレ」。

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パンパイプ。不覚にも現地名は未確認。アフリカで初めて見た。どういう経緯で伝わって来たのか興味が湧く。1人が1、2音を担当し全員で吹いて初めてフレーズが立ち上がる。

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鉄くずを組み合わせたパーカッション「ジャズ」。アフリカでホーンズが入っているバンドの多くは「○○Jazz」と名乗った時期があったが、関係しているのか?衝撃的なビジュアルながらチャキチャキと小気味よい音がするハイハットと下品なシンバルを組み合わせた感じ。

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バス・ドラムに相当する音を出す太鼓の「ブール」

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2人で演奏で演奏する木琴「オレンテーロ」。
ウガンダの木琴と言えば、ガンダ民族の王宮などでの演奏で成熟した「アマディンダ」や「エンターラ」がよく知られるが、オレンテーロは10年ほど前にアチョリ民族の音楽に取り入れられるようになったらしい。

これら全ての楽器で合奏する。
練習を見学した。
指揮者がいて、全員を統率している。
伝統音楽の各種コンペティションが各地で行われるお国柄を反映して、イントロや各種キメフレーズが盛り込まれ、ショーを前提に曲が作られている。
こういった、その民族の楽器オールスターズ的編成も近年生まれたものだろう。
音量の小さなルケメ・セクションにも5人ほど配置されているが木琴、オレンテーロのアタック音にかき消されてほとんど聴こえない。
竪琴アドゥンの大型のものが発する低音が豊かだ。全体のベースラインを担う。

見た目のゴージャスさに反して、迫って来るものがない生ぬるい演奏だった。
ピッチのズレも気になる。
ルケメに同じく、多くの女性メンバーは「鳴らす」程度の演奏力しかない。
しかし、多くの楽器は男性が弾くべきものとされる社会にあって、彼女たちが楽器に挑戦する姿自体がこの団体らしく女性の権利を告発している、ということを忘れてはならない。
ウガンダ北西部の町で開かれたコンペティションで優勝したというのも頷ける。
このグループの社会的な影響力は、ぼくの想像を超えるものだろう。

帰りがけにブッシュ氏が、イケナイモノの売人のように耳打ちしてきた。
「こんな演奏より、もっとスゲエ演奏聴きたくないか?」
さきほど素晴らしいベースを竪琴アドゥンで奏でていたキラマ氏がポン引きのように声をかけて来た。
「オレの村に来れば、ホンモノを聴かせてやるぜ!」

(続く)

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